写真やフォトブックに関するインタビュー
写真やフォトブックに関するインタビュー
猫を撮る心構えは「一期一絵」とぼくは自分に言い聞かせています。
出会いがしらの一瞬を逃したら、もう二度とその瞬間はやってこないでしょう。だってそこにもう猫はいなくて、さっきまでいたのが嘘のように、空間だけが残っているんですから。
しかしまた、いきなりパパラッチカメラマンみたいにカメラを猫に向けるのもいけません。「なんだその黒いものは?」という猫の不信、疑惑、懸念、まあ、どれでもいいですが、そういった不信や疑惑が浮かんだ「目」をちゃんと理解しないとダメですね。中には、オールウェイズウエルカムな猫もいますが、どっちにしても、撮ろう撮ろうという下心丸見えの、下品な接近は禁物です。
「一期一絵」を肝に銘じつつも狙っているそぶりは見せずにゆったり、さりげなく近づいていきましょう。ちょっとした物音や異物(カメラなど)で、繊細な猫はびっくりし、風のように立ち去ってしまうことも少なくありません。ですから、この「さりげない距離の縮め方」が非常に大切です。
この自然な動きを身につけるのにぼくは4年ほどかかりました。もちろん何回となく失敗を重ねてのことです。すぐそばに座ることができればもう大丈夫。相手はあなたを受け入れています。だからといって、急に別のカメラをバッグから取り出したりすると、びっくりしますから気をつけて。
カメラは最初からぶらんと下げて持っていたほうがいいでしょう。カメラを構えるまえに、猫の首のあたりをマッサージできれば、これはたいへんな作品の生まれる可能性があります。優秀な猫カメラマンは必ず優秀なマッサージ師であるといってもいいでしょう。
要は、猫の気持ちになりきっての猫優先のコミュニケーション。「ネコミュニケーション」ですね。シャッターはいつの間にか押している。猫も気付かぬ自然なリズムで。
そうやって撮影した写真が、その猫を通じて人と人をつないでいくことも多い。それをぼくは「ネコネクション」と呼んでいます。人と人だけでなく、なんだかいろんなものを繋げるんです、猫は。
たとえば…。それはまた別の機会に!
【執筆者 伴田良輔(はんだ りょうすけ)】
作家、写真家、版画家。京都生まれ。著書に『アリスのお茶会パズル』(青土社)、『mamma』(谷川俊太郎との共著/徳間書店)、翻訳書に『ダーシェンカ 愛蔵版』(青土社)などがある。
段ボールで作ったキャットハウスの写真絵本『The kittens of Boxville』が2009年に米国で出版され、世界でも例のない“猫家建築家”として話題になった。
無類の猫好きが高じて、雑誌『猫びより』では17年にわたって猫のいる旅館を訪れる写真紀行を連載中。
『猫のいる宿』『ようこそ女将猫』(辰巳出版)などの“宿猫シリーズ”の単行本がある。