写真やフォトブックに関するインタビュー
写真やフォトブックに関するインタビュー
皆さん、こんにちは。写真家のTATSURO(たつろう)です。
今回は、撮られた写真の背景に関するお話を3点ほど紹介します。
まずこちらは、世界の風景写真でもすっかりお馴染みになったトルコのカッパドキア。この気球は、毎朝夜明け前に空へと放たれ、日の出を気球の上から眺めるという至福のツアー。
少し胸の痛い話をすると、何年か前に日本人が乗った気球が墜落して、命を落とした事故がニュースで流れました。僕の周りでトルコへの渡航を予定していた多くの方も、憧れのカッパドキアでの気球散策の夢が破れたと落胆していました。
写真を見てもわかるように、世界中の多くのメーカーや企業が参入し、日本企業の気球もいくつかありました。僕はこの様子を地上から撮りたかったので、高台に上り、夜明け前から待機。日の出に向けて少しずつ、気球が飛び立つ準備を始めます。一見すると、とても綺麗で、すがすがしい光景ですが、数時間も見ていると、あの日のニュースが頭を過ぎります。
少しずつ、上空へ浮かんでいっているはずの気球。そのいくつかのうち、上がりきらず、風に流されて落ちていく気球もあるのです。ゆっくりとした速度で落ちていくものもあれば、乗客の命が心配になるほど早い速度で落下していくものもあります。何年か前のニュースはたまたま日本人の死者が出たため、大きく報道されましたが、世界規模で見るともっと多くの人が命を落としているのかもと思うと、日本とは比べ物にならない安全基準の低さに怖くなりました。写真の背景にはこんな事実が潜んでいるのです。
ちなみに、これらの気球の間隔は均等だと思いませんか?これはどの球体からも朝日が綺麗に見られるように、気球自体がもともと等間隔を保って飛んでいるからなのですが、写真の加工面での話を明かすと、それに加えて後処理もいくらかしています。
デジタル写真時代の今、撮った写真を自分や依頼主のイメージに合わせて処理するのは、もはや常識。なぜ、悲痛な事故の話をしたかというと、このような加工を行っている写真であることをお伝えしたかったからです。ここでの処理は重なった気球をいくつか消しています。それにしても日の出はほんの数分のショーです。選ぶ業者を間違えれば綺麗な朝日は見られませんし、命を落としてしまう危険性もあるのです。美しい背景の裏側には、そんな現実もあったのですね。
そしてこちらは、真っ青なアドリア海に浮かぶモンテネグロのスヴェティ・ステファン島。
モンテネグロはヨーロッパ南東部、バルカン半島に位置する国です。屈指のリゾートタウン、ブドヴァ近郊にあるスヴェティ・ステファン島はなんと島全体がホテル。この場所は2000年に先住民の追い出しを計画し、2009年にアマンリゾートが権利を得ました。その後「アマン・スヴェティ・ステファン」というラグジュアリーリゾートに生まれ変わり、ゲスト以外は入ることができないプライベートアイランドになったのです。
この写真は被写界深度も深いですし、一見、三脚でも立てて丁寧に撮影しているように見えます。しかし実際は長距離バスでの移動中、流れる景色の中、偶然窓の外に見つけた景色に感激し、2、3枚シャッターを切った中の1枚なのです。その一瞬で、なぜここまでのクオリティの写真が撮れたのか?その説明をします。
まず窓越しからそのまま撮ると、窓ガラスに車内の人や椅子が乱反射してしまいます。そこでPLフィルターを装着し、フィルターの二重の枠の前側を回転させながら、最もクリアに見えるところを探します。もともとアドリア海は、水面の中まで透き通って見えるほど美しい海なのですが、手前の水面が透けているように見えるのはPLフィルターの反射除去の効果が大きいです。移動中のバスは当然揺れるため、シャッター速度を速めに設定。この写真では焦点距離35mm と比較的ぶれにくい広角気味ではありますが、余裕をみて1/320秒まで上げました。そのぶんISO感度を上げて調整。バスは緩やかな蛇行路を絶えず移動し続けます。
撮りはじめはサイド光でしたが、秒刻みで順光になったり斜光になったり、絶えず太陽の位置が変わります。それに合わせて反射除去具合と色彩のコントラスト具合をこまめに確認するようにして構図を考えつつ、ひたすらファインダー内で反射の除去具合を確認しながら連写した1枚なのです。
最後に、こちらはユニクロのCMをきっかけに、ここ数年間で一気に有名になったボリビアのウユニ塩湖。
注意してほしいのは、いつでも誰もがこんな綺麗な写真が撮れるわけではないということ。美しい鏡張りの条件はまず雨季の1〜2月であることと、晴れていることが条件です。そして、雨が降った後というのが重要。しかし雨続きだと塩湖の表面に泡が浮くことがあり、その泡が沈むまで2~3日かかるので軽く降るくらいがベストなのです。
これらの条件が揃うのはなかなか大変です。何日も滞在しないとベストなウユニ塩湖は見られないので、オーロラを見るのと同じくらい滞在日数に余裕をみないといけません。雨季は当然のことながら雨が降る日が多いので、塩湖に行く日が土砂降りだったら台無しです。僕が行ったときは運良く初日に上記のような景色が見られました。今やここはすっかりメジャーな場所になりましたね。
僕がさらにオススメしたいのは、このメインの場所から車で1~2日間かけていく下の写真の場所ラグナ・コロラダです。
この赤い湖はなんだと思いますか?一瞬、赤潮かと思ってしますが、これは藻です。水面が綺麗すぎて、水中の赤色の海藻が見えているのです。綺麗ですよね。ここに生息しているフラミンゴがなぜ赤いか知っていますか?赤い色素が含まれた藻が好物なので、その色が体組織に沈着して赤くなるんですって。動物園では色素を混ぜた餌を使って赤くしているようですよ。
そういえば、こちらの青い湖にいるフラミンゴは白かった!面白い現象ですね。
ここまで読んでいただいた皆さんの写真ライフがもっと楽しく、充実したものになれば幸いです。
【執筆者 TATSURO(たつろう)】
[All Photo by TATSURO]
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1981年広島市生まれ。大阪芸術大学在学中からフォトグラファーとして広告撮影に携わる。渋谷区に3階建てテラスハウス撮影スタジオを構え、エディトリアルで著名人撮影を主として活動。
2012~15年の4年間、日本での撮影仕事の合間にバックパッカーとして80カ国渡航。2015年、2大メーカーCanon、Nikon共に35歳以下の新進気鋭写真家として選出され、全国各地で個展を開催。また、大阪・東京で路上販売を03~07年まで5年間続け1万人以上に写真詩作品を届ける。