写真やフォトブックに関するインタビュー
写真やフォトブックに関するインタビュー
子どもがいるご家庭では写真を撮る機会が多いと思います。しかし、「撮影した写真をアルバムにまとめたいけど、忙しくてデータのままになっている」という人も多いのではないでしょうか。
「写真をプリントしたり、アルバムにまとめたりすることが、子育てに対する意識に関係するかもしれません」と話してくれたのは、大阪教育大学の准教授・小崎恭弘先生。小崎先生は、日本では前例のない「アルバムが子育てに与える影響」についての研究を進めています。
写真データをプリントすることのメリットとは? アルバム作りが子育てに与える影響とは? 研究の内容や、デジタル時代に写真やアルバムを活用することの大切さを、3回に分けてご紹介します。
小崎先生の「アルバムと子育て」の研究について教えてください。
「私が研究を始めた2016年には、日本では同様の研究は前例がありませんでした。そこで、まずは予備調査として「アルバムを持っていますか?」「写真は何で撮っていますか?」「現像はしていますか?」といった基本的なことを、子育て中の保護者の方にアンケートで聞くところから始めました。」
アンケート結果からは、どんなことが分かったのでしょうか?
「予備調査の結果では、スマートフォンで写真を撮る人が圧倒的に多く、撮影したデータを現像している人は少ない、ということが分かりました。
対象を乳幼児の保護者の方に絞って行った本調査でも、写真を撮るときのツールでいちばん多かったのは「スマートフォン」で約半数でした。
次に、デジタルカメラ、デジタル一眼レフカメラと続きます。また、「撮った写真を現像していると思うか?」という質問に対しての回答は、「とてもそう思う」と「ある程度そう思う」が約3割。つまり、よく現像している人や、たまに現像している人は全体の約3分の1ということになります。現像している人がこれだけ少ないので、写真をアルバムにまとめている人も少ないと考えられます。」
写真を現像したり、アルバムを作ったりする人は意外に少ないんですね。
「アンケートでは「現像しない理由」も聞いていますが、いちばん多かった答えは「写真が多すぎる」というものでした。フィルムカメラが主流だったときは、写真は撮って現像するまでがワンセットでした。ところが今は、データが手元にあるという安心感から、「わざわざ現像しなくてもいい」という意識が生まれたように思います。
スマートフォンなどの普及により「撮る」ハードルが低くなっている一方で、「現像する」ことや「アルバムを作る」ことのハードルは高くなっているんです。写真の撮影と現像が非常にアンバランスな状態にあるというのが、今回の研究で分かったことのひとつです。」
今では写真もデータで保存するのが当たり前になってきていますよね。
そんな中で、写真を現像したり、アルバムにまとめたりすることのメリットは、どんなものだと思いますか?
「今回の調査では、スマートフォンやパソコンで保存・閲覧する写真は「デジタル」、現像されている写真やアルバムにまとめられた写真は「アナログ」と分類して、それぞれの優位性についても質問しています。
デジタル写真が優れている点は、「①保存や整理しやすい」「②低コスト」「③ 加工」と答えた人の割合が多くなりました。デジタル写真では、利便性をメリットと感じている人が多いことが分かります。一方で、アナログ写真では「人に渡せる」「思い出を見返せる」「愛着がわく」など、自分の気持ちや感じ方についてポジティブな意見が多く見られました。
もちろんデータでも写真のやりとりはできますが、「現像する」「アルバムにまとめる」といったひと手間がかかるゆえに、アナログ写真には気持ちをこめやすく、思いを伝えやすい、という特徴が生まれるのではないかと考えられます。」
アルバムにまとめることで写真に愛着が湧くという感覚は多くの方が経験していそうですね。
乳幼児の保護者の方は何冊くらいのアルバムを持っていたんでしょうか?
「「2冊~4冊」と答えた人が41%と、いちばん多くなりました。割合は少ないですが、10冊以上のアルバムを持っている保護者の方も一定数います。アルバムの内容は、「子どもの写真をまとめたアルバム」がいちばん多いという結果でした。同時に「子育ては楽しい」「夫婦仲はよい」「イライラする」「悩んだりする」といった項目で、子育てに対する意識調査も行っています。
これらの結果を比較したところ、子育てを楽しんでいるなど、「ポジティブ」な意識のある人のほうが、アルバムの冊数も多いという傾向が見られました。写真を現像してアルバムにまとめることは手間も時間もかかります。しかし、こういったことに手間や時間をかけられるのは、子どもに対する愛情の表れとも言えるのではないでしょうか。
また、スマートフォンなどで手軽に写真が撮れるようになったことで、「写真のデータはあるものの、数が多すぎてなかなか見返せない」という傾向もありました。アルバムを作ることで、子どもの成長を振り返りやすくなったり、思い出の写真を家族で何度も見ることができるようになります。それもまた、子育てに対する意識をより前向きにしてくれるのかもしれません。
保護者の皆さんも、なんとなく「アルバムを作ったほうがよさそうだ」と感じてはいたと思います。今回の研究では、実際にそれを裏付けるデータが出たと言えるでしょう。
アルバムを通して、子どもと一緒に写真を見るのも保護者の方にとっては楽しい時間ですよね。写真を現像したりアルバムを作ったりすることで、より子育てを楽しめるとしたら、どんどん活用してほしいと私も思います。 」
ありがとうございます。次回は、引き続き小崎先生にアルバム作りのメリットや、写真の残し方などを伺います。
【執筆者 小崎恭弘】
1968年、神戸市生まれ。大阪教育大学 教育学部 准教授。兵庫県西宮市初の男性保育士として施設・保育所に12年間勤務。
家庭では3児の父として育児休暇を取得して積極的に子育てをした経験もあり、「父親と子育て」を主な研究テーマにしている。
NPOファザーリング・ジャパン顧問、兵庫県子ども子育て会議委員、兵庫県男女共同参画委員なども兼任。
テレビ、新聞、雑誌などで情報を発信するかたわら、講演・執筆でも精力的に活動中。主な著書に『思春期男子の育て方』(すばる舎)、『きょうだいの育て方』(洋泉社)、『お母さんのための「くじけない」男の子の育て方』(集英社)など多数