写真やフォトブックに関するインタビュー
写真やフォトブックに関するインタビュー
大阪教育大学准教授・小崎恭弘先生にお話を伺う「アルバムと子育ての関係」の第2回(第1回はこちら)。今回は、アルバムを残す楽しさや、子どもと一緒にアルバムを見る大切さについてのお話です。
小崎先生は、写真を現像してアルバムにまとめることに、どんなメリットがあると思われますか?
「従来、写真を撮ることは現像することとイコールでした。写真は出生や七五三、入学式など、いわゆる「ハレの日」を記録するという特別な意味を持っていたんです。ところが、デジタル機器が普及した現在では、写真を撮ることが簡単かつ日常的なことになり、写真が持つ社会的な意味合いが希薄になっていると考えられます。
スマートフォンに保存されたデータよりも、現像した写真やそれをまとめたアルバムのほうが、「愛着」や「思い出」といった気持ちの面でのメリットや意味が加わりやすいと考えられます。写真をアルバムにまとめるメリットは、成長の記録になることだけではありません。その時、その瞬間の気持ちを何度も体験できることにあると思います。」
アルバムがあれば、親子で写真を見る機会も増えそうですね!アルバムを作ろうと思ったとき、どんな写真を残すのがよいでしょうか?
「今回の乳幼児を持つ保護者へのアンケートでは、アルバムにまとめている写真の内容についても調査しています。いちばん多いのは「出生」のときの写真、次に多いのは入園式、運動会、卒園式といった「保育園・幼稚園の行事」です。これらは、先ほど言った「ハレの日」の写真ですね。
例えば、運動会の写真を見ながら、「去年は泣いて走れなかったけど、今年はかっこよく走れたね」なんて話ができたら、すごくいいと思いませんか?
このように、行事などの「ハレの日」の写真のよさは、子どもの成長を振り返る節目になってくれることだと思います。3番目に多かったのは「子どものよい表情」「楽しそうな姿」でした。こういった何気ない写真は、手軽に撮影できるスマートフォンで撮る機会が多いのかもしれません。
毎日子どもと一緒にいる保護者の方は、どうしても日々の小さな成長に気づきにくいものです。私はこれをよく「歯2本のかわいさ」に例えています。子どもに初めて歯が2本生えてきたときは、たまらなくかわいいと思いますよね。やがて歯が4本になり、8本になっていくと、歯が2本だったときのかわいさを忘れてしまいがちです。子育てをしている時間はあっという間に流れていってしまいますからね。そんなとき、何気ない日常を撮った写真は、子どもの成長を意識させてくれるのでしょう。
アルバムにまとめるなら「ハレの日」の写真も日常の写真も、両方大切だと思います。忙しい日々の中で、アルバムを子どもの成長を実感するツールにしていってほしいですね。 」
写真を現像したり、アルバムを作ったりする人は意外に少ないんですね。
「アンケートでは「現像しない理由」も聞いていますが、いちばん多かった答えは「写真が多すぎる」というものでした。フィルムカメラが主流だったときは、写真は撮って現像するまでがワンセットでした。ところが今は、データが手元にあるという安心感から、「わざわざ現像しなくてもいい」という意識が生まれたように思います。
スマートフォンなどの普及により「撮る」ハードルが低くなっている一方で、「現像する」ことや「アルバムを作る」ことのハードルは高くなっているんです。写真の撮影と現像が非常にアンバランスな状態にあるというのが、今回の研究で分かったことのひとつです。」
子どもと一緒にアルバムを見るときに、気をつけたいことはありますか?
「私はもともと保育士をしていたのですが、その経験からも、子ども自身の記憶は意外とあいまいなものだと思うんです。だからこそ、その瞬間を写真に残しておいて、「○○ちゃん、こんなに小さかったんだよ」「このときは、アイスを落として泣いちゃったね」と写真を見ながら話してあげてください。子ども自身はそのことをよく覚えていなくても、楽しい体験として、記憶が上書きされていきます。こういう時間は、保護者の方にとっても楽しいものではないでしょうか。
もちろん、実際に体験することも大切ですが、写真やアルバムを通した間接的な体験も、ポジティブな記憶として子どもに残っていきます。「この公園に行ったときすごく楽しかったよね」「○○ちゃん、こんなことしてくれたよね」と、保護者の方のメッセージや思いを伝えたり、子どもの気持ちを聞いたり……一緒に写真を見ることでお互いにコミュニケーションをとることができるのも、アルバムの魅力のひとつだと思います。アルバムを作ったら、ぜひ親子で一緒に楽しんでください。」
小崎先生は「父親の育児」が主な研究テーマということですが、父親とアルバムについて何かアドバイスはありますか?
「お父さん向けの講演会でよくお話しするのは、「お父さんも写真に一緒に写りましょう」ということです。毎回でなくても、例えば年に1回くらいは家族で写真を撮りましょう。家族写真は「家族の軌跡」として残ります。写真を見ながら「〇年前はこんなことをしていたよね」「当時はこの服がお気に入りだったね」と家族で振り返ることができます。
社会の変化に伴い、家族形態も多様化しています。結婚したら夫婦、子どもが生まれたら親子といった定型のイメージも崩れつつあります。だからこそ、「夫婦になる」「家族になる」ためのイメージを意識して作っていくことが、大切だと思います。ぜひ、写真やアルバムを家族のイメージを意識することに役立ててください。」
今回も、貴重なお話をありがとうございました。次回は、小崎先生が実際に撮った家族写真や、アルバム作りに役立つツールなどを伺います。
【執筆者 小崎恭弘】
1968年、神戸市生まれ。大阪教育大学 教育学部 准教授。兵庫県西宮市初の男性保育士として施設・保育所に12年間勤務。
家庭では3児の父として育児休暇を取得して積極的に子育てをした経験もあり、「父親と子育て」を主な研究テーマにしている。
NPOファザーリング・ジャパン顧問、兵庫県子ども子育て会議委員、兵庫県男女共同参画委員なども兼任。
テレビ、新聞、雑誌などで情報を発信するかたわら、講演・執筆でも精力的に活動中。主な著書に『思春期男子の育て方』(すばる舎)、『きょうだいの育て方』(洋泉社)、『お母さんのための「くじけない」男の子の育て方』(集英社)など多数